事故のあと、保険会社から「今回は経済的全損です」と伝えられて、戸惑われる方は少なくありません。車はまだ形が残っているのに全損と呼ばれる。修理費は出ないのか、直したいのに直せないのか——最初にそう感じるのは自然なことだと思います。
経済的全損は、車が壊れて動かないという意味ではありません。修理費と、車両保険で決めた金額との大小の話です。この記事では、全損という言葉の意味、保険金の考え方、そのうえで修理を選ぶか買い替えを選ぶかを分ける判断材料を、板金塗装の立場から整理しました。
結論:全損には2種類ある。「経済的全損」は修理費が保険価額を上回った状態
日本損害保険協会「損害保険Q&A」問44には、全損について「ご契約の自動車全体の滅失、修理費が保険価額を上回るなど」と書かれています。つまり全損には2つの意味があります。
- 物理的全損…車そのものが失われた場合(滅失、盗難で見つからない場合など)
- 経済的全損…車は残っているが、修理費が保険価額を上回った場合(多くの契約では、この保険価額が車両保険の保険金額と一致します。理由は次の章で説明します)
ぶつかった箇所が少なくても、骨格や電装、センサー類にまで及べば修理費は伸びます。反対に、年式が進むほど車両保険の金額は下がっていきます。この2本の線が交差したときに、経済的全損という言い方になります。
大事な点をひとつ。全損=修理してはいけない、ではありません。受け取れる保険金の上限が保険金額になります。差額をご自身で負担して直すという選択も、実際にあります。保険を使った修理の全体像は保険修理についてのページにまとめていますので、あわせてご覧ください。
仕組み:保険価額はどう決まり、全損だと何が変わるのか
保険金額は契約時に「協定」して決まっている
同Q&Aの問16では、自家用普通乗用車などの契約には「車両価額協定保険特約」が自動的に付帯(セット)されているのが一般的だとしたうえで、これを「契約時に契約者と保険会社との間で保険価額を協定し、契約時の市場販売価格相当額(被保険自動車と同一車種、同年式で同じ損耗度の自動車を購入する場合の価格のことで、いわゆる再調達価額になります。)で設定した保険価額と保険金額を保険期間中は常に一致させるというもの」と説明しています。
ここで言う「協定」は、契約のときにあらかじめ決めてある金額のことです。事故のあとに決めるものではありません。保険証券の車両保険の欄に書かれている金額が、そのまま上限の目安になります。
全損だと免責金額の扱いが変わる
同じQ&Aの問44には、車両保険でも免責金額を設定していれば保険金から差し引かれるとしたうえで、「ただし、全損(ご契約の自動車全体の滅失、修理費が保険価額を上回るなど)の場合は、免責金額を差し引かずに保険金が支払われます。」と書かれています。なお同Q&Aは「保険会社により約款は異なります」とも注記していますので、実際の取扱いはご加入の契約内容をご確認ください。
免責金額そのものの考え方は免責金額より修理費が少ないときは?保険を使うか使わないかの判断基準で解説していますので、あわせてご覧ください。
| 分かれ目 | 修理費が保険金額を下回る(分損) | 修理費が保険金額を上回る(全損) |
|---|---|---|
| 受け取れる金額の上限 | 修理費の範囲 | 車両保険の保険金額まで |
| 免責金額 | 差し引かれる | 差し引かれない(Q&A問44) |
| その後の選択 | 修理して乗り続けるのが一般的 | 差額を負担して修理/買い替え/そのまま乗る、から選ぶ |
なお、新車を購入して間もない場合は「車両新価保険特約(新車特約)」が付いていることがあります。同Q&A問16は、この特約について、購入後一定の期間内に一定以上の損害を受けた場合に代わりの新車を購入するための保険金を支払うものと説明したうえで、付帯にも支払いにも一定の条件があるとしています。付いているかどうかは保険証券でご確認ください。
ケース別:修理と買い替え、どちらを選ぶかの判断材料
正解はひとつではありません。次のような点を並べて比べると、ご自身の場合が見えてきます。
修理を選ぶ判断がしやすいケース
- 保険金額と修理費の差が小さく、自己負担が買い替えの費用より軽く収まりそうなとき
- 同じ車種・同じ状態の車を、いま同じ価格で探すのが難しいとき(生産終了、装備の違いなど)
- 車検が残っていて、買い替えると諸費用が別にかかるとき
- 愛着があり、この先も乗り続けたいと決めているとき
買い替えを検討したほうがよいケース
- 骨格(フレーム)まで及んでいて、修理費が保険金額を大きく超えるとき
- もともと次の車検や大きな整備の時期が近く、そのあとの出費も見込まれるとき
- 走行距離が伸びていて、今回直しても別の部位の傷みが続きそうなとき
見落とされがちな費用
- 買い替え側=登録や車庫証明などの諸費用、自動車税・重量税、任意保険の切り替え
- 修理側=代車が必要な期間、部品の入荷待ちで延びる可能性
- どちらにも共通=手続きに動く時間そのもの
金額だけを並べると買い替えが有利に見える場面でも、諸費用まで足すと差が縮むことがあります。逆もあります。両方の総額を出してから決めるのが、いちばん後悔が少ない進め方だと考えています。
実務ではどう進むのか
見積りから協定までの進み方
実際の流れは、まず車を見て損傷の範囲を確認し、修理の方法と工程を組み立てるところから始まります。そのうえで見積りを作り、保険会社の担当者と金額と修理範囲のやり取りをして、内容が合意に至れば協定となります。この協定の仕組みは協定・仮協定とは?保険を使った修理で金額が決まる仕組みと確認したい点で詳しくまとめています。
段階を分けた見積りという考え方
当店は損保の指定工場ではない独立した立場で、元請けとして保険会社と直接やり取りしてきました。全損に近い金額になりそうなときは、「この範囲まで直すといくら」「ここを次の機会に回すといくら」というように、段階を分けた見積りをお出しすることがあります。差額の負担が現実的かどうかを、数字で見比べていただくためです。
なお、保険金の請求は契約者であるお客様が行うものです。当店がお手伝いできるのは、見積りの作成や画像の提出といったやり取りの部分になります。修理費が保険金額を超えるかどうかは、損傷の中身を見てみないと分かりません。「全損と言われたが直せないか」というご相談は、実際にいただきます。対応できる修理の範囲はサービス一覧にまとめています。
よくあるご質問
全損になると、等級はどうなりますか
車両保険を使った場合の等級の扱いは、事故の種類によって変わります。全損かどうかで自動的に決まるものではありません。3等級ダウン・1等級ダウン・ノーカウントの違いは保険を使うと等級はどうなる?で整理していますので、そちらをご確認ください。実際の適用はご加入の保険会社の契約内容によります。
全損でも、車を手元に残せますか
残せる場合と、車を引き渡すことになる場合があります。手元に残す場合は受取額の計算が変わることもあり、保険金の支払いと車の扱いをどうするかは契約の内容によります。まずは保険会社の担当者にご確認ください。手元に残して修理する道を選ぶなら、その前に修理の見積りを取っておくと判断しやすくなります。
保険金額を超えた分は、まったく出ないのですか
車両保険から受け取れる金額は、保険金額が上限になります。相手のいる事故で相手方に請求する場合も、同Q&A問43に「損害賠償は、車の時価額が限度額となります」とあり、修理費の全額を請求できるとは限りません。ただし同問は、時価額と修理費の差額を一定額まで補償する特約(対物差額修理費用補償特約等)が相手方の契約に付いていれば、差額分を補償してもらえる可能性があるとも説明しています。ご自身と相手方の契約に何が付いているかは、保険会社にご確認ください。
修理する場合、期間はどれくらいですか
損傷の範囲と部品の入荷状況で変わります。骨格に及ぶ修理や、部品の取り寄せが必要な場合は長くなります。当店では工場代車をご用意していますが、ご利用には他車運転特約が必要です。手続き全体の流れはご依頼の流れをご覧ください。
セカンドオピニオンとして見てもらえますか
はい。損傷の状態を見て、修理の方法と概算をお伝えすることはできます。相談と現車確認は無料です(作業を伴わない、保険会社提出用のお見積り書の作成は有料になります)。そのうえで買い替えのほうが良さそうであれば、そのようにお伝えします。
保険が使えるか、まずは無料でご相談ください
中野区江原町の板金塗装専門店・フジバンキン保険修理センター。創業60年超・年間500台超。保険会社とのやり取りも状況とご希望に応じて代行します。無理な勧誘はいたしません。
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