高速道路を走ったあとフロントガラスに小さな欠けができていた、ゲリラ雷雨のあとボンネットとルーフが一面ぼこぼこになっていた、台風の翌朝に飛ばされてきた物が当たって傷がついていた——。ぶつけたわけでも、ぶつけられたわけでもない傷は、「これは保険の対象になるのだろうか」と判断に迷いやすいところです。
結論から申し上げると、車両保険は「偶然な事故」による損害を対象としており、物の飛来・物の落下・台風・洪水・高潮なども、そこに含まれるものとして案内されています。ただし、契約している車両保険のタイプで範囲が変わる、地震・噴火・津波は原則として対象外、といった前提があります。この記事では、保険の対象になるのか/等級はどうなるのか/修理に入る前に何をすべきかを、中野区で保険を使った修理を扱ってきた立場から整理します。
結論:まず確認するのは「契約のタイプ」「地震・噴火・津波かどうか」「修理前の連絡」の3点
自然災害や飛来物の傷でご相談をいただいたとき、最初に整理していただきたいのは次の3点です。
- ご契約の車両保険がどのタイプか…車両保険には補償範囲を限定したタイプがあり、飛来物や台風による損害が含まれるかどうかは契約によって変わります
- 原因が地震・噴火・津波でないか…この3つは車両保険で「保険金が支払われない主な場合」に挙げられています
- 修理に入る前に保険会社へ連絡したか…直してしまうと、どんな損傷だったのかを確認する手立てがなくなります
車両保険がいう「偶然な事故」には自然災害や飛来物も入っている
対象になる「偶然な事故」の中身
日本損害保険協会は、車両保険について「被保険自動車が、偶然な事故によって損害を受けた場合に保険金を支払う保険です。」としたうえで、この「偶然な事故」の中身をこう説明しています。
「この『偶然な事故』とは、交通事故だけではなく、衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、洪水、高潮など、あらゆる偶然な事故で、被保険者の過失によって発生した偶然な事故も含みます。」(日本損害保険協会「損害保険Q&A」問15)
走行中に跳ねてきた石、飛ばされてきた物、降ってきた氷の粒といった「自分は何もしていないのに受けた損害」も、車両保険が想定している事故の形に入っているということです。同協会は続けて「約款で定めている『保険金を支払わない場合』を除き、原則として、すべての事故に対し、保険金が支払われます(ただし、後述のとおり、契約パターンによって補償範囲を限定している場合があります。)。」とも説明しています(同・問15)。
それでも支払われない主な場合
一方で、原因によっては対象から外れます。同協会が「車両保険で、保険金が支払われない主な場合」として挙げているもののうち、自然災害・経年劣化に関係が深いのは次のとおりです。
| 支払われない主な場合 | 身近な例 |
|---|---|
| 地震・噴火またはこれらによる津波によって生じた損害 | 地震で倒れてきた物による損傷、津波による水没 |
| 被保険自動車の欠陥、摩滅、腐しょく、さび、その他自然の消耗による損害 | 紫外線によるクリア層の劣化、下回りのさび |
| タイヤに生じた損害(他の部分と同時に損害を被った場合、火災・盗難による場合を除く) | 落下物を踏んでタイヤだけを傷めた |
※ 日本損害保険協会「損害保険Q&A」問15 に挙げられている「保険金が支払われない主な場合」から、自然災害・経年劣化に関係する項目を抜粋しました。全11項目のうちの一部です。
なお、地震・噴火・津波については、同協会が「保険金支払いの対象外ですが、一定の条件(補償する損害を限定しないタイプの車両保険を契約している場合で車両が全損となった場合など)で、一定額(50万円など)を扱っている会社もあります。」とも説明しています(同・問15)。一律に「まったく何も出ない」とは限らないということですので、該当する場合はご加入の保険会社にご確認ください。
同じ「飛来物」でも、契約のタイプで結論が変わる
ここが一番の分かれ目です。車両保険には補償範囲を限定したタイプがあり、限定したタイプほど保険料は安くなります。日本損害保険協会は補償範囲の例を「他車との衝突等による損害」「火災・爆発・盗難等による損害」「単独事故等による損害」の3区分で整理したうえで、「火災・爆発・盗難等による損害」の区分について「保険会社により補償内容は異なりますが、その他、次のような『偶然な事故による損害』が含まれるケースもあります。」と注記し、その例として「物の飛来、物の落下、台風・洪水・高潮 など」を挙げています(日本損害保険協会「損害保険Q&A」問15)。
言い換えると、飛び石や雹による損害が補償に含まれるかどうかは、契約しているタイプと保険会社の取扱いによって変わり得るということです。「自然災害なら必ず出る」とも「限定タイプなら必ず出ない」とも言い切れないため、保険証券またはご加入の保険会社・代理店にご確認いただくのが確実です。タイプによる違いの考え方は当て逃げされたらまず何をする?警察への届出と車両保険で修理するまでの流れでも、あて逃げを例に整理しています。
使ったときに等級はどうなるのか
「使えるか」と同じくらい気になるのが「使ったらどうなるか」です。自動車保険では、事故を起こして保険金の支払いを受けると1事故につき3等級下がり、有事故契約者には3年間、低い割引率が適用されます(日本損害保険協会「損害保険Q&A」問23)。一方で、同協会は次のようにも説明しています。
「盗難や台風、洪水、高潮などによって車両保険の保険金を受け取った場合などは、1事故につき1等級下がります(これを『1等級ダウン事故』といいます。)。また、1年間、有事故契約者の低い割引率が適用されます(1年間無事故で過ごせば、無事故契約者と同じ割引率が適用されます。)。」(日本損害保険協会「損害保険Q&A」問23)
ここで注意していただきたいのは、この例示に「飛び石」や「雹」は名前を挙げられていないという点です。同協会も、等級の取扱いについて「取扱いは各社によって異なる場合がありますので、詳しくは保険会社または代理店に問い合わせることが必要です。」と添えています(同・問23)。「雹害は1等級ダウン」と説明されることもありますが、当店としては断定せず、ご加入の保険会社に確認していただくようご案内しています。等級の3区分そのものについては保険を使うと等級はどうなる?3等級ダウン・1等級ダウン・ノーカウントの違いで詳しく整理しています。
あわせて確認したいのが免責金額(自己負担額)です。修理費が比較的小さくおさまる損傷では、受け取る保険金と、等級が下がることによる翌年以降の保険料増加を並べると、自費で直したほうが総額で軽くなることもあります。この判断軸は免責金額より修理費が少ないときは?保険を使うか使わないかの判断基準にまとめています。
損傷のパターン別に、確認したいこと
ひとくちに「自然災害の傷」といっても、直し方も確認すべき点も違います。よくあるパターンごとに整理します。
- 飛び石でフロントガラスが欠けた・ひびが入った…小さな欠けのうちは補修で対応できる場合がありますが、放置すると振動や温度差でひびが伸びることがあります。視界の中心にかかる位置や、ひびが長く伸びている場合は交換の判断になります。カメラが取り付けられているガラスかどうかで作業の性質が変わるため(後述)、車種と年式もあわせてお知らせください
- 飛び石でボンネットやドアに点状の傷がついた…下地まで達しているかが分かれ目です。塗膜の表層で止まっていれば部分的な補修で収まることもありますが、下地が出ていると腐食が進むため早めの対処が必要です
- 雹でルーフ・ボンネットが一面へこんだ…気象庁の予報用語では、ひょう(雹)は「積乱雲から降る直径5mm以上の氷塊」とされています(5mm未満は「あられ」)。氷の粒が面で当たるためへこみの数が多くなりやすく、1か所いくらではなく総数で金額が決まるのが特徴です。塗装が割れていないかどうかで直し方が変わります
- 台風で飛んできた物が当たった…何が当たったかで損傷の深さが変わります。可能であれば飛来物そのものと、当たった状況が分かる写真を残しておいてください
- 冠水した道路を通って水が入った…外装の傷と違い、電装部品や内装まで影響が及ぶことがあります。エンジンをかけずに、まず保険会社へご連絡ください
修理工場では実際にどう進むのか
直す前に、保険会社への連絡が先
順番として大事なのは、修理より先に保険会社へ連絡することです。日本損害保険協会も、事故のときの対応として「自動車を修理するときには、必ず事前に保険会社に連絡してください。」と案内しています(日本損害保険協会「損害保険Q&A」問25)。直してしまうと、その損傷がどういうものだったのかを後から確認する手立てがなくなるためです。雹害のように「翌朝気づく」タイプの損傷ほど、この順番が崩れやすいので気をつけてください。
当店での流れ
当店にも「雹のあと、ルーフが一面へこんでしまった」「高速で飛び石を受けてガラスが欠けた」というご相談が寄せられます。実際には、まず現車を見て損傷の性質と範囲を確定するところからです。飛来物による打痕なのか、経年による劣化なのかは、金額を決める前に押さえておかないと後から食い違いの原因になります。打痕が多いケースでは、パネルごとに数を数え、塗装まで割れているかどうかを分けて見ていきます。
保険をお使いになる場合、保険金の請求はご契約者であるお客様が行うものです。当店がお手伝いできるのは、見積書の作成や損傷箇所の画像を提出するといった、保険会社とのやり取りの部分になります(ご相談と現車確認は無料ですが、作業を伴わない保険会社提出用のお見積り書の作成は有料です)。画像を送ってやり取りできるため、お車をお預かりしたまま確認を進められる場面も多くあります。当店は損害保険会社の指定工場ではない独立した立場で、必要な修理内容を根拠とともにご説明する形で対応しています。手続き全体の流れは修理の流れ、保険を使った修理の仕組みは保険修理についてをご覧ください。対応できる修理の範囲は対応メニューにまとめています。
カメラが付いたフロントガラスは、制度上の扱いが変わる
ここからは当店に限らず、修理を扱う事業者全体に関わる制度の話です。飛び石でフロントガラスを交換する場合、近年の車では制度上の論点が加わります。国土交通省の資料では、電子制御装置整備の対象となる作業として、自動ブレーキやレーンキープ機能に用いられる「前方をセンシングするためのカメラ等の取り外しや機能調整」に加え、「カメラ、レーダー等が取り付けられている車体前部(バンパ、グリル)、窓ガラスの脱着」が挙げられています。これらの整備・改造を行う事業者は地方運輸局長等の認証を受けた事業者と位置づけられており、施行時に設けられていた経過措置も令和6年3月31日で終了しています(国土交通省 関東運輸局「特定整備制度説明会」資料)。
カメラが付いているかどうかは車種・年式・グレードで異なります。まずは現車を確認したうえで、どういう手順が必要になるかをご説明しますので、ご自身で判断せずお声がけください。
よくあるご質問
飛び石は相手が分からないのに保険を使えますか?
車両保険は「偶然な事故」による損害を対象としており、そこには物の飛来・物の落下も含まれると案内されています(日本損害保険協会「損害保険Q&A」問15)。ただし補償範囲を限定したタイプの契約では扱いが変わり得ますので、使えるかどうかはご契約の内容によります。保険証券かご加入の保険会社にご確認ください。
雹が降った日から時間が経ってしまいました。今からでも間に合いますか?
まずはご加入の保険会社にご連絡ください。時間が経つほど、いつの損傷なのかを示す材料が少なくなります。降雹があった日付・駐車していた場所・気づいた日時を控え、へこみが分かる角度で写真を撮っておくと話が進みやすくなります(修理に入る前の連絡が大切です・同問25)。
ガラスの小さな欠けは、放っておいてはいけませんか?
欠けの大きさと位置によります。ただ、ガラスは振動や温度差の影響を受けるため、小さな欠けからひびが伸びることがあります。伸びると補修では収まらなくなりますので、気づいた段階で一度見せてください。
地震で物が倒れてきて車がへこみました。車両保険は使えませんか?
地震・噴火またはこれらによる津波によって生じた損害は、車両保険で「保険金が支払われない主な場合」に挙げられています。ただし同協会は、補償する損害を限定しないタイプの車両保険を契約している場合で車両が全損となった場合など、一定の条件のもとで一定額(50万円など)を扱っている会社もあると説明しています(同・問15)。へこみのように全損に至らない損害がこれに当たるかどうかも含め、ご加入の保険会社にご確認ください。
まとめ
飛び石・雹・台風の飛来物による傷は、車両保険がいう「偶然な事故」の中に位置づけられており、相手がいない損害だからといって、はじめから対象外というわけではありません。分かれ目になるのは、契約している車両保険のタイプ、原因が地震・噴火・津波でないか、そして修理の前に保険会社へ連絡できているかという手順です。等級についても、1等級ダウン事故として例示されているのは「盗難や台風、洪水、高潮など」で、飛び石や雹は名指しされていません。断定できないところは断定せず、ご加入の保険会社に確認していただく——それが結果的に一番損の少ない進め方だと考えています。まずは傷を見せていただくところからで構いません。
【この記事で参照した資料】日本損害保険協会「損害保険Q&A」問15(車両保険は、どのような保険ですか。)/問23(自動車保険の「等級」について教えてください。)/問25(交通事故を起こしてしまった場合、どのようなことをすればよいのですか。)/気象庁「予報用語」(降水)/国土交通省 関東運輸局「特定整備制度説明会」資料
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